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ロシア・ホームステイ手記
ラーメン中華

−第16回−

決別


 養子問題はおばあちゃんが最も恐れていた形に終わり、A君は養子として引き取られました。

 数日後、A君は新しい両親と荷物を取りにやって来ました。
遠足の準備をするように、A君はウキウキしながらあれこれ自分の荷物を取り出していました。その横でおばあちゃんは淡々とその荷物をまとめていました。
 おばあちゃんが「これは持って行きなさい。」と服を差し出すと、A君は反発するように「それはいらない。」と言い、断固として持っていくことを拒んでいました。恐らく、以前おばあちゃんが買ってあげた服だったのでしょう、それを「いらない。」と言われ、おばあちゃんは不満そうにぶつぶつ言いながら、次の荷物の整理に移るのでした。

 このA君の引越しの様子を見ながら、僕は自分がここに引っ越してからのことを思い出しました。

 理想的な家庭に見えた初日、Sさんがアル中だとわかってショックを受けた日のこと、A君に誕生日プレゼントをもらったあの日のこと、Sさんが入院し、おばあちゃんとA君と3人で平和に暮らしていた日のこと、そして養子問題が持ち上がってからのことと、短期間にこの家庭に起こった様々な出来事を思い出し、そして今A君がこの家を去ろうとしている姿を見て、僕は自分にも何か責任があったのではないかと考えてしまいました。もし僕がここに住んでいなかったら、こうはなっていなかったのではと思いました。知らず知らずに僕が彼らのリズムを乱し、それが今の問題を引き起こしてしまったように思えました。


 必要な荷物をまとめ、最後におばあちゃんにキスをして、A君は新しい両親と家を去りました。

 僕は部屋に戻り、これからどうしようか考えました。もうこの家に住み続ける自信はありませんでした。

 A君の部屋には机とベッド、そしてこれから弾かれることのないであろうピアノだけが残されました。A君のいないその部屋はがらんとして、まるで僕の心を映しているようでした。


つづく。(予定)

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