SF作家 セルゲイ・ルクヤネンコの世界
一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第1回目の講話内容です。
テーマ:「SF作家 セルゲイ・ルクヤネンコの世界」
講 師:デルカーチ・フョードル(本校副校長)
セルゲイ・ルクヤネンコはカザフスタン出身で、現代ロシアだけでなく世界的に人気の小説家です。彼の本業は、心理療法士です。そのためか、作品の傾向はファンタジーの中にも精神論を問うものが多いです。
また、彼に影響を与えた作家はウラジスラフ・クラピーヴィンが挙げられます。クラピーヴィンは児童文学を主に書いており、その影響でルクヤネンコの作品も子どもや青年が主人公の作品が多いです。
それでは作品をいくつか見ていきましょう。
まずは1997年発表の『鏡の迷路』です。この話は、仮想世界と現実世界の区別がつかなくなるという話です。区別がつかなくなった人達が、現実世界に戻ろうと奮闘するのです。
次に紹介するのは1998年には『未調理のフグ』という作品です。ルクヤネンコは日本通で知られ、この話も日本が登場します。内容は、国民投票で、領土問題を問いかけた際に、ロシア全土を日本に渡してしまったというものです。
彼の作品で一番多く翻訳され、映画化もされた人気作は1998年に発表された『ナイト・ウォッチ』というものです。モスクワを舞台に光と闇の派閥による対決が物語の基軸となっています。日本でも2006年に映画が公開されています。ルクヤネンコはある雑誌のインタビューでこの作品について「どうしてこんなに人気が出たかわからない」と話しています。実は私も同意見です。面白くないわけではありません。でも、彼の作品にはもっと面白いものがあるのに、というのが私の意見です。
最後に紹介するのは1998年発表の『Черновик(チェルノヴィク)』です。舞台はモスクワ、主人公は青年です。ある日突然に自分の情報がなくなるところから始まります。免許証に記載されていた名前や住所が消えていき、また彼を知る人達から彼の記憶が無くなります。友人だけに限らず、恋人や両親の記憶からも消えます。主人公は皆の記憶に自分が戻るように、また情報が元に戻るように冒険をする物語です。
ルクヤネンコの書く小説はどの作品も自分の生きる世界とは別の世界が描かれ、そこが物語の舞台となっています。彼らはそこから逃げたかったり、戻りたかったり、戦ったりします。小説の多くは現実ではないものを想像する楽しさがあると思います。最初にも話しましたが、ルクヤネンコの小説は舞台こそファンタジーであれ、そこで生きる葛藤や戦う意味など精神論的に考えさせられます。
日本語訳されているものは少ないですが、ぜひ皆さんにも一度読んでいただきたいと思い、今回のテーマにしました。いかがだったでしょうか。
最後に紹介した『Черновик』は今年映画化されたので、その予告編を一緒に見て終わりにします。
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