2017ウラジオストクの旅 2
<2日目 午前>
ホテルヴェルサイユの朝食は8時から10時までの間、2階のレストランで自由にとることができる。食券もなければチェックする係員もいない。女の人がたまに食べ物を補充しにくる程度だ。メニューはアラディ(ロシアのパンケーキ)やカーシャ(オートミール)、パンのほか、チーズやハム、サラダ、飲み物など毎日変わり映えしないけれど、別にそれで十分だ。それよりも朝ここに来れば、必ず仲間の誰かがいてゆったりとお茶を飲んでいる、そんな安心感がある。私たちのほかには、日本人や欧米人のお客がちらほらいる。
この日は夕方まで自由行動の予定であったが、ほぼ全員で街歩きをすることになった。天気は快晴。私たちは2011年に日本・ウラジオストク協会が発行した「浦潮日本人街散策マップ」を手に、ホテルからスポーツ湾のほうへ下りてナーベレジナヤ(海岸通り)を歩いた。
バルコニーのように海に張り出したロトンダからはスポーツ湾を一望することができる。この下の海岸に沿う石垣は、かつて日本人抑留者が積み上げたものだという。今は観光名所になっているが、そんな悲しい歴史もある。
そしてこのロトンダは2014年公開の映画「ホテルビーナス」のロケ地にもなった。日本人俳優たちがすべて韓国語のセリフをしゃべり、ウラジオストクで撮影した無国籍感漂う不思議な映画なので、機会があれば見てほしい。最後のクレジットには協力のところで“Far Eastern National University(当時の極東国立総合大学)”の名前も出てくる。
それからまた地図を片手に、今度はアルセーニエフの家記念館を目指した。アルセーニエフは黒澤明の映画「デルス・ウザーラ」で知られている極東地方の探検家であり、彼が晩年を過ごした家が記念館になっている。
レンガ造りの二階家の前にはアルセーニエフの胸像がある。案内のおばちゃんが3人ほどいて、入口で一人150ルーブル払うと、「ロシア語がわかるのは誰?」と聞かれたので、全員わかるから問題ない、と軽く嘘をついて、ロシア語で説明してもらった。私たちが質問もしながら熱心に聞くものだからおばちゃん(ちゃんとした学芸員さんだと思うが)は探検の道具から家族の遺品まで丁寧に説明してくれて、アルセーニエフが実際に旅で使った組み立て式のベッドも広げて見せてくれた。
調査に使った道具が飾られる中に、ナナイ人の案内人デルスの写真もあった。映画の俳優マキシム・ムンズクはデルスに本当によく似ている。実はこの俳優の孫が以前極東大学で日本語を勉強しており、2010年に函館校に留学したことがあるのだ。当時その事実を知り、私たちは興奮した。「え、デルス(役)の孫!」、それでより一層デルスに親しみを覚えたのだ。
小さな記念館だが、アルセーニエフの足跡がわかるとてもよい展示であった。
そこから細い路地を抜けて、ウラジオストク駅の方へと向かう。鬱蒼と緑が生い茂り、洗濯物が干されるなど、裏道には人々の生活の営みが感じられる。
道端ではおばあちゃんが果物やお花を広げて売っていた。(つづく)
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