ロシア語は「恐ろしあ語」?
幼いころ、僕を子守りする人がいた。中学を卒業してまもなく宮城の僕の家に奉公に来た彼は、僕をおんぶして「尻取り歌」をとなえていた。「ろすあ やばんこぐ くろぱとちん ちんたま まっこのふん ふんどす すめだたかちゃんぽん ぽんやり りこうしょうの はなめっちゃ ちゃんちゃんぼうずのいげどりで ていこぐばんざい ばんばんざい」。ロシアは恐ろしい国として僕に刷り込まれた。あれから60年。今度は、完了体、不完了体、形動詞だという。恐ろしさを通り越した。
もちろん救いもある。偉大なプーシキンがフランスからの船を待って、牡蠣を食べたとの由。このカキはヨーロッパヒラガキ、通称フランスガキ。日ロ戦争の時に巨大な金塊が出たという金山を一時所有して失敗した僕の父は、今度はこの牡蠣の垂下養殖を手掛けていた。あの丸くて、平らで、ちょっと渋みのあるヤツ。どうだい、僕は牡蠣でプーシキンと繋がっているではないか。フランスから輸入した冷凍モノではなく、プーシキンが食べた生ガキと同じ生ガキを食べたじゃないか。それも父が育てたモノを。
僕がこの学校にいる間にフランスガキも養殖場も跡かたもなく流された。母までも。しかし、「かきじいさん」と呼ばれている兄は、その子供たちは再びヨーロッパヒラガキを育てるでしょう。僕はそのときこう提案するつもりです。「この牡蠣を『プーシキンの牡蠣』と呼ぼうじゃないか」と。震災時のロシア人の援助を忘れはしない。
何?ロシア語は恐ろしいかって。あったりまえだ。だって大統領の熊語じゃないか。