一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第2回目の講話内容です。
テーマ:「現代ロシアの大学システムについて」
講 師:グラチェンコフ・アンドレイ(本校教授)
ロシア国内の統計によれば、大学の数は1273校(2006年)です。国立大学が55%、私立大学が45%の割合です。国立大学は教員数も学生数も多く、ロシアにおいて非常に重要な位置を占めています。
ロシアの国立大学の財政基盤は連邦政府からの資金です。それが教員の給料や大学の建物の修理、新しい設備の購入資金になります。ところが政府からの資金を大学が勝手に分配することはできません。資金も不足しています。ですから大学は資金を捻出するために様々な商業活動を行いますが、課税の対象となっています。
近年、国立大学の中から選ばれた大学が連邦大学になるという構想が政府の中で生まれました。連邦大学になると政府から受け取る資金を自由に使えるなど、財政上の特権が与えられます。2010年には極東大学本学も連邦大学になる予定です。
国立大学は専門学校が権威付けのために、かさ上げして大学と称しているものが多くあります。カレッジやインスティテュート(単科大学)は少数派です。数年前に短大もできました。学部によって変わりますが、基本的には修業年限は文系大学4~5年、理系大学6年、短大3年、専門学校は2年です。大学を卒業すると、「専門家」という資格が与えられます。その後進学を希望し、3年間の大学院課程を修了、論文審査にパスしたものはカンディダート・ナウク、つまり学士院会員候補の称号が与えられます。これは北米における博士号と同等の学位です。
現在ロシア国内の有力大学ではヨーロッパや北米の大学と交流協定を持っています。3~4年修了時に学士号を与え、その後1~2年ヨーロッパや北米に留学し、ロシアで論文を仕上げてパスすれば両方のマスターが得られるというシステムも現代の学生には人気があります。
ソ連時代は、学費は全て無料でした。今でも無料の学部はありますが、人気や需要のある学部は有料です。例えば、モスクワのプレハーノフ経済アカデミー(国立大学)の学費は年間約6,000ドル、成績により割増があり、8,000~10,000ドルになります。さらに成績下位の者は、両親が大学へ寄付金を支払うことにより入学が許可されていることもあります。
国立大学教授の月給平均は150~250ドルです。先ほどのプレハーノフ大学では、付近の駐車場は学生が乗ってくるベンツなど高級車で溢れ、整理ができないほどですが、その横を年老いた教授がトボトボと徒歩で通勤している、そんな光景が今のロシアを象徴していると思います。
ロシアも日本と変わらぬ学歴社会であり、親は教育にお金を惜しみません。しかし、金持ちの子弟だけが良い教育を受けられる現状は、機会均等の点から見て問題です。
また、国土が広いロシアでは通信教育が発達しており、向学心に燃えた若者は昼間働きながら、がんばっています。今日のような変革の時代には、この中から次代を担う人材が出てくることが期待されます。
ロシアの入試は筆記と口答両建てです。○×やマークシートはほとんどありません。箱の中から封筒に入った問題を選び、口述で答える。ロシア人は日本人より雄弁です。なぜなら小中学校から自己表現能力・発表能力が鍛えられているからです。しかし、金持ちが幅を利かせるロシアの口答試験よりは、公正の点から日本式の方が優れていると言えます。
現在でもロシアでは小・中学校は公立で、高校を含めて教育は全て無料です。しかし、約10年前に始まった経済改革で、私立学校が出現しました。私立学校はロシア教育省が定めた科目以外にも日本語・上級英語・雄弁術などがあります。私立学校は受験があり、競争が厳しく、授業料も高い。負担できるのは高収入の家庭に限られます。
日本では、医学や法律など専門的な大学以外は主に一般常識を学び、会社に入ってからその会社に役立つことを勉強することが一般的ですが、ロシアでは高校時代にすでに将来の職業を決めて、学部を選びます。ロシアでは大学間にあまり差はありません。ペレストロイカ以降、経済・経営・法律・外国語などの学部が、ビジネスに興味のある若者に人気があります。旧ソ連では成績により勤務先が決まりました。4年生にもなると就職活動の代わりに会社の秘書補佐やマネージャー補佐、通訳など本格的なアルバイトや研修に力を入れます。講義を休み、ビジネススーツを着て会社訪問に明け暮れる、居酒屋やコンビ二でサービス業のアルバイトする日本の学生とは違います。
13~20歳の子を持つ両親の63%が大学を出てほしいと願っています。54%が高い授業料を払うことに理解を示しています。最近では大学とその学生数が増加、それによりレベルは低下しています。人物・学力ともにレベルに達していなければ、わいろが必要です。
徴兵免除が理由の大学入学もあります。学生の間は軍隊に入らなくてもよいので、大学院に進む男子学生の割合も高いのです。
レベルの高い学生を増やすため、大学は地方に分校や特別な学部などを増やし、地方の者も進学できるよう努力しています。ロシアでは近くの大学に行くのが普通です。地方に住む若者も簡単に進学できるようになりましたが、すると学生も教員もレベルが低下します。
大学の教員の給料が低いことも問題で、そのために教員たちは塾を開くなどの兼業をするようになります。年金支給は65歳からですが、大学の教員の平均年齢はそれに近い。70~80歳まで働く教授も珍しくありません。理由の一つは、大学の教員の仕事は人気がない。以前のような大学教員の重要性や意義は完全に失われ、魅力のない仕事になってしまったのです。もう一つは国立大学では高い学位を持つ教官の率が高いほど、ロシアの大学ランキングで上位を占めるので、大学も年老いたドクターを離さないのです。そしてこのランキングは連邦政府から獲得できる資金と非常に関係があります。
ロシアも少子化で、国立大学は付属の幼稚園の時から未来の学生を管理しています。昨今の金融危機により雇用機会が減少と、大卒者が増加することで、大学を出ても車を洗ったり、キオスクで新聞を売る、朝市の人夫になるといった若者が増えています。卒業証書の価値は紙くず同様になり、若者達の希望と現実の間に大きな差が生まれています。
<今日のひとことロシア語>
Как ваши дела(カク ヴァシ デェラー=ご機嫌いかが)?