FMいるか 多言語みんたる 2
FMいるかで放送された ONE WORLD WAVE「多言語みんたる」の内容をご紹介する第2回目です。
ゲスト:ロシア極東国立総合大学函館校
教頭 アニケーエフ・セルゲイ(以下アニ)
聞き手:財団法人 北海道国際交流センター
事務局長 池田 誠(以下池田)
<12月9日放送 第2回 ロシアの食べ物とヴォトカ>
池田:前回はロシアのお正月や誕生日の過ごし方など、人のもてなしについてお伺いしましたが、本当にロシアの人たちは明るいな、という感じがしましたね。
今日はロシアの食べ物についてお伺いしたいなと思っています。アニケーエフ先生は函館に住んで10年くらい経つそうですが、自分で料理はしますか?
アニ:お腹がすいたときは簡単なものを作りますが、本格的にロシア式のものを食べたいときは、本格的ロシア料理の一つ、ボルシチを作ります。ボルシチはスープの種類ですが、スープではありません。
池田:あれはスープじゃないんですか?!
アニ:ロシア人はそれをメインだと思っています。だからボルシチだけ食べて満腹になる。
池田:ボルシチも食べてピロシキも食べてペリメニも、というのではなくて、もうそれだけでお腹いっぱいになる。
アニ:そうです。いっぱいいろんな具が入っているから。
池田:極東大学と僕の勤める国際交流センターは同じ建物内にありまして、僕は時々ボルシチを頂くことがあるんですけど、非常においしいですし、具がいっぱい入ってますよね。特に真っ赤になるのは、あれはなんでしたっけ?ビーツ?
アニ:ビーツが入っているからボルシチです。ビーツがなかったら本来はボルシチと呼べません。ビーツを入れると真っ赤になります。ロシア人は真っ赤な色はめでたいという気持ちもあります。
池田:なるほど。これにいろいろな野菜が入りますよね。
アニ:季節に合わせて。ビーツを収穫するのは夏の半ばごろですね。だから春はボルシチは作れないわけではないけれども偽物として、赤い色はトマトでごまかす。
池田:おー、なるほど!それでキャベツ、ジャガイモ、肉なんかも入りますよね。
アニ:普通はボルシチのスープベースは肉。肉といえば西のモスクワ辺りでは牛肉なんですが、ウラジオストクは沿海州、極東にありますね。ウラジオストクにはロシア人も非ロシア人も住んでいます。極東では肉はほとんど牛じゃなくて豚なんです。
池田:場所によって違うんですね。それでいろんなものを入れて煮込んで…。
アニ:食べるときは仕上げにサワークリームをかけて食べます。サワークリームなしでも結構ですが。
池田:ハーブを乗せたりしますよね?
アニ:ロシアの食文化は日本と違って、味付けは素朴です。昔から塩コショウしかなかった。今も塩コショウだけです。だからディルで香りをつけます。日本では「ウイキョウ(茴香)」といいます。日本人はウイキョウを生け花などで眺めるんです。ロシア人は食べるんです。日本人にとっては強烈な匂いかもしれませんが、ロシア人は大好きです。
池田:お茶にしたりしますか?
アニ:しません。病気になったときには薬だといわれますが、私は詳しくありません。
それからまず、ボルシチはお客さんに出すものではありません。それは失礼です。ボルシチは毎日のものですから、味噌汁みたいです。
池田:家庭料理なんですね。
アニ:だからお客さんをもてなすときはボルシチは絶対出しません。日本だけです。
池田:極東大学のロシアまつりでは出てましたね?あれはだめなんですね。
アニ:ほんとはだめです。
池田:ロシアの食べ物はほかにどんなものがあるかというと、僕らが知っているのはピロシキとか、餃子風のペリメニなどがありますし、海のものも結構食べますよね?
アニ:ロシアの中心といえば西のモスクワです。モスクワ辺りには海がなく、昔からロシア人には魚を食べる習慣がほとんど根付いていません。食べていたのは川魚です。でも魚ではあまり力がでないと思っています。魚ではなく肉をいっぱい食べたら動けます。だから魚は料理にはしますけれども、あまり。
断食するときには魚を食べていいといわれます。あとは何もないとき。魚に対するロシア人の態度は日本人から見ればおかしいと思われるけれども、ロシア人は魚は本格的料理じゃないと思っています。
池田:食べ物じゃないと。肉が食べ物だと。
アニ:代用品です。ロシアは広いです。ウラジオストクは日本海に面していて海に近いけれども、魚はほとんど冷凍品で、新鮮なものはないです。生を食べる習慣もありません。
ロシア人はフライパンで必ず火を通してから食べます。焼き魚という言い方は日本語でもロシア語でもありますが、日本人が思う焼き魚とロシアで出てくる焼き魚はまったく違います。それはムニエルという形です。
池田:日本のレストランではよく肉にしますか、魚にしますかと聞かれますけど、ロシアの人に聞いたら全部肉ですね。
それにしても、イクラというのはロシア語からきているんですよね。あとはルイベとか。その辺からいくと、魚の食文化もないわけではないのでは。
アニ:たとえば私の家庭は父親が漁師で船もありました。二人で船を出して、網で魚を獲っていっぱい食べました。
池田:生で食べたんですか?
アニ:いやいや、スープとかフライとか。だから私は子どもの頃から魚を食べる習慣があります。日本に来てからここは極楽ですけど、それにしても魚が高い。選ぶとすれば、肉のほうが安いから肉にします。
池田:函館は安いと思いますけどねえ。ちなみにどんな肉がメインなんでしょう。
アニ:うちは普通豚です。
池田:よくロシアの方は黒パンと豚の背脂を食べると聞きますが、それは本当ですか?
アニ:豚の貴重な部分は肉だけではありません。表面の脂だけの部分をにんにくと塩で漬けて、2~3週間ほど寝かせて食べます。あとは冷凍庫に入れて、ルイベみたいに薄くスライスして黒パンに乗せて、ヴォトカに一番のつまみになります。ヴォトカを飲まない人はただ食べますけど。
池田:ロシア人はみんなヴォトカを飲むんじゃないかという気がしますけれども。
アニ:いや、それは誤解だと思います。ロシア以外の国の人々はロシア人はみな大量に酒を飲むと思っています。でもロシアにももちろん酒を全く飲まない人、下戸もいます。そういう意味でロシア人が大酒飲みという考え方は間違いだと思います。
昔からロシアの伝統に従えば、酒を飲むのはイベントとか、めでたいときの祝い酒だったんです。だから飲む機会が限られていました。今もその流れは続いています。ロシア人は酒を飲む機会が少ない、だから飲むとなったらとことんまで飲むという習慣があります。こういうことが消費量を高めているのではないかと思います。
池田:なおかつ度数が高い。
アニ:ロシア人は、ただ単に飲みたいから飲むわけではありません。日本人は晩酌しますね?ロシアでは毎晩家に帰ってから酒を飲んでいるだんなさんを見たら、奥さんはカンカンに怒って、それが一週間続いたら離婚する。それは家庭には害だけです。その意味でロシア人の女性は男性と強く闘っています。
池田:日本とはかなり違いますね。日本では晩酌している人いっぱいいますものね。
アニ:妻も旦那に注いでくれるでしょ?ロシアではだめです。だから男性だけで集まって、妻たちから見えないところで隠れて飲みます。
池田:アニケーエフ先生は、奥さんがウラジオにいらっしゃるので、今は大丈夫ですね?
アニ:大丈夫です!
池田:今日はどうもありがとうございました。また次回よろしくお願いします。
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