はっさく1号の・・・
あんなことこんなことロシア 第6回

初めての日本語教師 その1
ローマ君のパソコン(前編)


思い出すだけで切なくなるものがある。
それは、ローマ君のパソコン。

ローマの部屋には、私が日本語を教えに通い始めた最初の頃から大きなデスクトップの立派なパソコンが置いてあった。
私たちはいつもそのパソコンが乗っかっている机にむかって並んで座って、いっしょに日本語を勉強していた。

私が着くとまずローマがいすを用意して、すわり心地がいい様にショールをたたんで掛けてくれる。その上にまずは決まってネコのマーシャが飛び乗ってしまうのだけど、その後彼女はしばらくそのまま私の横に座っているか本棚の上やパソコンの上なんかをぴょこぴょこした後、結局はいつも暖かいランプの下かソファーの上に落ち着くのだった。

マーシャはさておきローマ君の話に戻ると、彼はほんとうに普通の小学生ではなかった。
並外れた理解力と洞察力、覚える力、知的好奇心。
そして、大抵のことは自分で調べて自分でやろうとする行動力。
そう、パソコンの操作のことだって、彼は全部自分でコンピュータ関係の本を読んで勉強したのだった。なにせ両親をはじめまわりにはコンピュータに詳しい大人はいなかったし、住んでるアパート中でパソコンのある家自体、ほんの数件だったのだから。

冬休みが明けて初めての授業のときだった。私がローマにウィーンで買ったお土産のチョコをあげると、彼はまずパソコンの上に置いて「こうやって飾って、箱も綺麗だからちゃんととっとくんだ。」とうれしそう。
普段かなり冷静でクールな彼がたまにはしゃぐと、ものすごくかわいい。
そして、パパとママから新年のプレゼントに買ってもらったというモデムを見せてくれた。モデム。モデム。うん、確かにモデム。外付けのモデムだった。
あれ?てことは今までインターネットに繋いだりはしてなかったの?
と不思議に思ったので聞いてみると、
「インターネットはまだしたことないんだ。」と彼。
「ふーんそう。でもじゃあ、これからはいっぱいできるね。私が日本に帰ってもメールできるじゃん!」と私。
「うん。それに何でも調べられるし、大きくなったらインターネットの翻訳家にだってなれるよ!」
「ふふふ。(可愛いなあと思いつつ)・・日本に来たい?」
「勿論!どうしたら行けるかわからないけど、行きたいよ。働けたらいいな。」
「そっかぁ。じゃあローマが大きくなったら日本でまた会えるかもね。パパとママと一緒においでよ。私が案内してあげる。」
「うん。そうなったらいいな。」

なんて他愛もない話をして、いつもの様に授業をして、帰りぎわ。
いきなりお母さんのイーラが「ローマ!あれあれ!忘れちゃだめだよ!」
とせかすと「そうだ!!」と慌ててローマは台所の方から何かを持ってきて、「これ、新年のプレゼント・・・!」と私に手渡してくれた。
それは、プーシキンの民話の美しいイラストで彩られた大きなアルバムだった。
「すごい・・綺麗!!私に?」
「あなたのためにローマが自分で選んだのよ。」とイーラ。
ローマ君はさっきも書いたけれど普段わりとクールで、感情を全面的に出す子ではない。正直、そんな彼が私のためにプレゼントを選んでくれたなんて驚きだったので
(おいおい)本当に嬉しくて、感激だった。
「ありがとう。これにモスクワで撮った写真を全部入れるね。」
と、とっても幸せな気分でその日は帰ったのだった。

後編へ つづく…。
ローマ君がはっさく1号さんのために一生懸命選んだプレゼント、
プーシキンの民話イラストのアルバムです。
本当に綺麗ですね〜。

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